あらすじ
ISBN: 9784101003412ASIN: 4101003416
アロマオイルを纏った肌をぶつけ合い、のぼり立つ匂い。調香師との情事は、私に長い愛人生活を終わらせる予感を抱かせた。あの光景を目にするまでは──(「アンビバレンス」)。年上の人妻経営者に持ちかけられた三か月間の恋人契約。俺に抱かれ、女の喜びを感じると話していた彼女は、なぜ突然いなくなったのだろう(「バタフライ」)。記憶と熱を一瞬で呼び覚ます特別な香り。五編の恋愛小説集。
村山由佳が描く本作は、嗅覚という本能的感覚を軸に愛の深淵をあぶり出した傑作です。孤独を抱える男女の肌のぬくもりと香りが、読者の脳裏に鮮烈な情景を焼き付けます。理屈では割り切れない愛の機微を香りの変化になぞらえて描き出す筆致は、まさに官能と抒情の極致です。 一瞬の香りに宿る永遠と喪失の対比こそが本作の真骨頂です。記憶を揺さぶる香りの暴力性と、救われる魂の震え。ページをめくるたび香りのヴェールに包まれ、自身の熱情が呼び覚まされるはずです。残酷で美しい真実を、ぜひ五感ですべて受け止めてください。