村山由佳が紡ぐ繊細な感情の機微を鮮やかに昇華させた本作の魅力は、言葉にならない「行間の切なさ」を丁寧に掬い取っている点にあります。単なる青春物語の枠を超え、一杯のコーヒーのように温かくもどこか苦い「大人への脱皮」の疼きが、読む者の胸を深く締め付けます。
今巻の白眉は、恋敵の出現によって揺れ動く勝利の葛藤です。鴨川の情景とともに描かれる告白は、単なる愛の言葉ではなく、自身の幼さと決別しようとする切実な祈りと言えるでしょう。純粋すぎる二人の想いは、私たちが忘れかけていた瑞々しい記憶を鮮烈に呼び覚ましてくれるはずです。