あらすじ
失踪した夫を待ち続ける下沢唯。夫の居場所を残しておきたい、という思いから探偵事務所を引き継いだのだが、浮気調査など気が滅入る仕事ばかり。あるとき、行方不明になった男の捜索依頼が舞い込んだ。手掛かりは白石和美という愛人。が、和美は日がな寂れた観覧車に乗って時を過ごすだけだった。彼女の心を占める虚無とは?静かな感動を呼ぶ恋愛ミステリー。
ISBN: 9784396332266ASIN: 4396332262
作品考察・見どころ
本作は、単なる失踪事件を追うミステリーの枠を超え、魂の欠落を抱えた女性たちの共鳴を描き切った珠玉の人間ドラマです。柴田よしきが冷徹かつ慈しみ深い筆致で掬い上げるのは、日常の裏側に潜む圧倒的な虚無と、それでも「待つ」ことを選ぶ者たちの矜持です。観覧車という、円を描きながらどこにも辿り着かない装置の象徴性が、出口のない喪失感を見事に具現化しています。 物語の白眉は、対照的な境遇にある二人の女性が、目に見えない絆で結ばれていく過程にあります。不在の夫を待つ孤独と、ただ観覧車に揺られ続ける空虚。言葉にならない絶望が重なり合う瞬間、静謐な文体から読者の胸を打つ情熱が溢れ出します。これは愛を問い直す聖域のような物語であり、読み終えた後、あなたの心にも深い余韻という名の観覧車が回り続けるはずです。