秋川滝美/大崎梢/柴田よしき/新津きよみ/福田和代/光原百合
15年ぶりに再会した友人と訪れた京都。昔話に花を咲かせるが、みなそれぞれに事情を抱えていて……(「あの日の味は」)。亡くした夫との思い出を胸にひとり旅をしていた故郷・神戸で偶然出会った青年。一緒にスイーツ巡りをすることになるが(「幸福のレシピ」)。住んでいた街、懐かしい友人、大切な料理。温かな記憶をめぐる「想い出」の旅を描いた7作品を収録。優しい気持ちに満たされる、文庫オリジナルアンソロジー。「あの日の味は」柴田よしき「幸福のレシピ」福田和代 「下戸の街・赤羽」矢崎存美「ゲストハウス」新津きよみ「からくり時計のある町で」秋川滝美「横浜アラモード」大崎梢「旅の始まりの天ぷらそば」 光原百合
本作は、食と旅という普遍的なテーマを通じ、人生の深淵に触れる珠玉のアンソロジーです。記憶の断片を「味覚」という鍵で鮮やかに解凍していく過程が実に見事です。実力派作家陣が描く情景は、読者の喉奥に料理の香りを蘇らせるだけでなく、心の奥底に眠る純粋な感情をも呼び覚ましてくれます。 各編に共通するのは、単なる観光案内ではない、魂の再生を描く文学的真摯さです。喪失や孤独といった現実を抱えながら、それでも一口の美味に救われる瞬間の尊さ。文字を追うごとに心が洗われるような贅沢な読書体験がここにあります。旅先の一皿がこれほどまでに雄弁に人生を語るのかと、驚きと感動を禁じ得ません。