あらすじ
ISBN: 9784334744281ASIN: 4334744281
新堂レイは有名ブランドHに就職したばかりの新人広報。彼女は、海で偶然再会した同級生の大路尚純と昨年夏から付き合っている。尚純は大学生。彼が両親と暮らす文京区小日向の家で、兄夫婦が同居をし始めたーー。それぞれが関わり合って淡々とした日常を紡ぎだす。お互いに踏み込むことのできない「聖跡」を抱えながらもーー。4人の視点で「春夏秋冬」を描き出す。
吉田修一氏が描くのは、日常という名の静謐な舞台に差し込む微かな光です。本作は、誰にも踏み込ませない「聖域」を心に抱えた男女が、四季の移ろいの中で重なり合い、時にすれ違う様を極めて繊細に切り取っています。他者と繋がる喜びと、決して分かち合えない孤独。その両端を等価に描く筆致は、読む者の魂を静かに震わせるでしょう。 特筆すべきは、淡々とした暮らしの断片に宿る「美しき断絶」の描写です。小日向の空気感や季節の香りが、言葉を超えた感情を雄弁に物語ります。触れ合ってもなお消えない個としての絶対的な孤独を、これほどまでに慈しみを持って肯定した物語はありません。人生の深淵に触れる、至高の日常小説です。