あらすじ
ISBN: 9784101287522ASIN: 410128752X
風呂上りの火照った肌に鮮やかな刺青を躍らせた猛々しい男たちが、下穿き一つで集い、日々酒盛りに明け暮れる三村の家。人面獣心の荒くれどもの棲む大家族に育った幼い駿は、ある日、若い衆が女たちを連れ込んでは淫蕩にふける古びた離れの家の一隅に、幽霊がいるのに気づくのだった。湾の見える町に根を下ろす、昭和後期の地方侠家の栄光と没落のなかに、繊細な心の成長を追う力作長編。
吉田修一氏が描く本作の真骨頂は、昭和の熱気が孕む荒々しくも美しい肉体美と、滅びの美学にあります。刺青を躍らせる男たちの嬌声と少年の無垢な視線が交錯する瞬間、読者は理性を超えた生々しい生命の脈動に直面します。侠家という共同体が崩壊へ向かうなか、少年の心が震え成長する過程はあまりに耽美的で切実です。 淫蕩と暴力の片隅に幽霊を見出す吉田氏の静謐な筆致は、熱帯夜の眩暈を誘います。凄まじい現実と死の匂いを纏った幻影が溶け合う光景は、失われゆく美しき蛮勇への鎮魂歌のようです。これはある時代への決別であり、読者が胸の奥に秘めた喪失の原風景を激しく揺さぶる、魂を焦がすような読書体験を約束する傑作です。