吉田修一は、言葉にできないほど微細な心の震えを、鮮やかな輪郭で描き出す稀代の語り部です。本作に収められた十の物語は、都会の片隅で静かに摩耗する魂や、ふとした瞬間に噴き出す過去への郷愁を、残酷なまでの透明感で映し出しています。何気ない日常の裏側に潜む深淵を覗き込むような、文学的な愉悦に満ちた短編集です。
特に表題作に漂う、打ち捨てられた離島の光景と現代の空虚さが交差する叙情は圧巻です。それは単なるノスタルジーではなく、私たちが忘れ去った生の実感を激しく揺さぶる案内図と言えるでしょう。一見すると平坦な人生に宿る、一瞬の閃光のような美しさと痛み。読了後、あなたの見慣れた景色は、きっと別の色彩を帯びて動き出すはずです。