あらすじ
天才調香師は、人の「欲望」を「香り」に変える――。 直木賞受賞第一作。『透明な夜の香り』続編! 「君からはいつも強い怒りの匂いがした」 カフェでアルバイトをしていた朝倉満は、客として来店した小川朔に、自身が暮らす洋館で働かないかと勧誘される。朔は人並外れた嗅覚を持つ調香師で、その洋館では依頼人の望む香りをオーダーメイドで作り出す仕事をしていたのだ。 朔のもとには、香りにまつわるさまざまな執着を持った依頼人が訪れる。その欲望に向き合ううちに、やがて朔が満を仕事に誘った本当の理由が分かり……。 香りを文学へと昇華した、第6回渡辺淳一文学賞受賞作『透明な夜の香り』に続く、ドラマティックな長編小説。
ISBN: 9784087448801ASIN: 4087448800
作品考察・見どころ
千早茜は、目に見えない香りを鋭利な言葉で脳裏に焼き付ける魔術師だ。本作で調香師・朔が解き明かすのは、単なる芳香ではなく人間の深淵に潜む欲望や癒えない傷である。香りが記憶を呼び覚ますように、読者は自分でも気づかなかった内なる感情の輪郭を突きつけられるだろう。 物語の核心は、他者との邂逅が生む感情の化学反応にある。満の抱える怒りが朔の静謐な世界と混ざり合う過程は圧巻だ。著者は「香りを綴る」という至難の業を、官能的かつ知的な文章で成し遂げている。人間の業をこれほど美しく、残酷に昇華した物語は他にない。魂を揺さぶる至高の読書体験がここにある。