谷崎潤一郎の真髄は、肉体の一部や倒錯した欲望を、美という絶対的な宗教にまで昇華させた点にあります。刺青によって魂を覚醒させる女、あるいは白い足先に至上の悦びを見出す男。彼らの狂気は、醜悪な現実を峻拒し、純美な世界を築き上げるための神聖な儀式に他なりません。
谷崎の流麗な文章は、読者の五感を執拗に愛撫し、禁断の領域へと誘います。自己を滅却してまで崇拝の対象に溺れゆく姿は、滑稽でありながらも、人間が抱く業の究極の救済を体現しています。文学という装置で人間の内奥を鮮やかに解体してみせた、これぞ文豪の真骨頂といえる名作群です。