一穂ミチという作家が描くのは、言葉にできないほど繊細な感情の機微とその「余白」です。本作は十周年を記念する一冊でありながら、単なる回顧録に留まりません。かつて交わした挨拶が時を経て新たな意味を持つ瞬間、あるいは別れの予感を含んだ出会い。そんな人生の岐路に立つ人々の姿を、著者は透徹した眼差しと慈しみをもって描き出しています。
書き下ろされた十一の物語には、読者の心に深く潜り込むような詩的な美しさと、残酷なまでのリアリティが共存しています。テキストだからこそ表現し得る、静謐な時間の流れと登場人物たちの内面の震えをぜひ堪能してください。物語の終わりは新たな始まりであることを告げる本書は、あなたの記憶の底にある「大切な誰か」を呼び覚ます、珠玉のアンソロジーとなるはずです。