村田沙耶香が描く「からっぽ」の主人公・如月空子は、我々が信じる自我という幻想を根底から揺さぶります。性格を持たない彼女の視点を通し、社会の常識という名の歪んだ記号が暴かれる様は圧巻です。個人の消失が世界の真理を照らし出すという逆説的な構造は、正に村田文学の真骨頂です。
人類の終着点を見据えた本作は、既存のディストピアを超え、生命の本質を問う黙示録です。虚無に同化するうちに自らの輪郭さえ溶け出す感覚。世界そのものが変容していく圧倒的な筆致に、魂を射抜かれるような戦慄と恍惚を覚えずにはいられません。