Tonight,The Night
あらすじ
ISBN: 9784813012993ASIN: 481301299X
ある夏の日、熱中症にかかった真知は、偶然とおりかかった佑に助けられた。真知の実家は和菓子屋で、佑は得意先のひとり息子だった。報われない恋をしている大人とまだ恋をしらない子ども、真知・二十一歳、佑・十二歳、それが出会いだった―。以来、佑はなにかと真知に懐き、少年らしい潔さとまっすぐな心を向けてくる。そして佑は真知に想いを告げる。「俺、真知が好き、どうしたらいいの」と。幼い告白に真知の心は揺れ―。
一穂ミチが紡ぐ物語の真髄は、夏の熱気に浮かされるような陶酔感と、年齢という境界線を越えてゆく魂の純真さにあります。二十一歳の女性が抱く大人の諦念と、十二歳の少年が向ける混じりけのない情熱。一穂文学特有の繊細な筆致は、実家の和菓子の甘美さとその奥にある仄暗い苦味のように、読者の感情の深淵を優しく、かつ鋭く抉り出します。 本作が描くのは、少年の潔さが大人の心を浄化していく奇跡の過程です。時の流れの中で瞬く間に失われてしまう少年期の刹那的な美しさと、理屈では割り切れない愛の情動を、これほどまでに鮮烈に結晶化させた手腕は見事と言うほかありません。読後、あなたの心には熱風が吹き抜けた後のような、静謐で激しい余韻がいつまでも残り続けるはずです。