あらすじ
ISBN: 9784167697228ASIN: 416769722X
R省の局長を父にもつ田沢輪香子は、旅で知り合った考古学好きの青年と深大寺で再会する。和服の女性と一緒のその青年は小野木喬夫といい、東京地検の新任検事であった。喬夫と連れの女性・結城頼子は仮度かの逢瀬を重ねてきたが、頼子は喬夫に素性を明かすことはなかった。輪香子はその後、喬夫と交流をもつようになる。
松本清張が社会派の筆致で描き切った、究極の恋愛悲劇です。検事と人妻の許されぬ恋は、法や組織といった抗いがたい壁に翻弄される人間の孤独を浮き彫りにします。清張特有の冷徹な視線が、皮肉にも二人の純愛をより鮮烈に、そして残酷なまでに美しく際立たせています。 情景描写に宿る文学的深みも本作の白眉です。深大寺や富士の樹海といった情景は、登場人物の閉塞感や逃れられぬ宿命を雄弁に物語ります。理性で御しきれない情念が男の人生を浸食し、破滅へと導く過程は、現代を生きる読者の心をも激しく揺さぶります。清張文学の真骨頂といえる、重厚で哀切極まる名作です。

実写化・アニメ化された映画やドラマを観て、原作小説ならではの美しい心理描写や、映像化で新たに加えられた解釈・演出との違いを楽しみましょう。