あらすじ
昭和51年、東京の下町。竹中宗吉は、働き者の妻・梅子と共に小さな印刷会社を営んでいた。大手の印刷会社の下請けだったが、新型の印刷機を導入したばかりで、景気はよかった。ところが、隣の食堂から火が出て、印刷所はあっけなく燃え落ちてしまった。そんな緊急事態なのに、印刷ブローカーとの接待とやらで出かけた宗吉とはまったく連絡が取れない。実はそのとき、宗吉は愛人・山田菊代のもとにいた。宗吉は6年前、菊代が料亭の中居をしていた頃から親密な関係になり、3人の子どもももうけていた…。
作品考察・見どころ
この作品の真髄は、善良な人間が極限状態で「鬼畜」へと変貌する心理描写の凄絶さにあります。玉木宏が演じる主人公の追い詰められた苦悶と、常盤貴子や木村多江が体現する静かな狂気が混ざり合い、画面越しに冷たい汗が伝わるような緊迫感を生んでいます。日常のすぐ裏側に潜む深淵を、徹底したリアリズムで描き出した演出が見事です。
単なるサスペンスを超え、愛と憎しみ、そして逃れられない人間の業を鋭く問いかける本作。誰しもが持ちうる心の闇を暴き出すその筆致は、観る者の倫理観を激しく揺さぶります。映像だからこそ成し得た、役者の視線の動きや沈黙の間が、言葉以上に人間の本質を雄弁に語り、忘れがたい衝撃と深い余韻を残します。