あらすじ
ISBN: 9784800293879ASIN: 4800293871
とある住宅街。柴田治と息子の祥太は、日常的に万引きをする生活を送っていた。ある日、治は幼い少女が家から閉め出されているのを見かねて、連れて帰る。妻の信代と、同居する信代の母の初枝、信代の妹の亜紀は、少女の家庭事情を案じ、戸惑いつつも少女を「家族」として迎え入れ、「りん」と名づける。しかし、ある出来事をきっかけに、家族の抱える「秘密」が明らかになっていく―。国の内外で大きな反響を呼んだ映画『万引き家族』を、是枝裕和監督が自ら小説化。
血の繋がりを超えた「絆」とは何か。是枝裕和が描くこの物語は、社会の隙間で身を寄せ合う人々を通じ、家族という制度の輪郭を鮮やかに問い直します。小説版では、映像のフレーム外にある登場人物たちの記憶が静謐な筆致で綴られており、彼らの「声なき叫び」がより切実に胸を打ちます。 文字は彼らが背負う罪の感触を重層的に浮き彫りにし、映画で感じた温かな余韻に、逃れられない孤独という鋭い刃を突き立てます。両メディアを味わうことで、真の「愛」が持つ残酷さと救いを同時に目撃する。これこそが、この物語を深く読み解く醍醐味なのです。

現代の日本映画界において、最も深い慈愛と鋭い観察眼を併せ持つ至高のヒューマニスト、それが是枝裕和です。カンヌ国際映画祭の頂点であるパルムドールをはじめ、数々の国際的な栄誉に輝く彼は、今や世界が新作を最も熱望する映画作家の一人となりました。早稲田大学を卒業後、テレビドキュメンタリーの世界でキャリアを切り拓いたその出自は、彼の映像言語に唯一無二のリアリズムをもたらしています。デビュー作から一貫して不在や家族の在り方を問い直し、誰も知らない子供たちの孤独や、血縁を超えた絆の揺らぎを、静謐ながらも力強い筆致で描き出してきました。キャリア統計が示す63作品におよぶ膨大な足跡と、平均評価6.8という極めて高い水準は、ドラマやドキュメンタリー、さらには犯罪というジャンルを越境しながら、常に人間性の深淵に肉薄してきた執念の結実です。近年ではフランスや韓国の才能とも共鳴し、国境を越えた映画製作の新たな地平を切り拓いています。制作集団「分福」を主宰し、次代を担う作り手を育むその真摯な姿勢は、映画という文化の未来を繋ぐ灯火そのものです。社会の裂け目から零れ落ちる小さな声を拾い上げる是枝監督の眼差しは、混迷を極める現代において、私たちに寄り添う一筋の光として輝き続けています。