柚木麻子の描く本作は、犯罪小説を超え、現代女性へ贈られた黙示録です。容疑者・梶井真奈子が放つ言葉の数々は、社会が女性に強いる「清貧」の呪縛を容赦なく暴き立てます。バターが溶け出すように、理性の裏側に潜む本能的な渇望が浮き彫りになる過程は、あまりに美しく残酷です。
読者は主人公と共に、己の中の食と生の欲望に向き合わされます。五感を刺激する濃厚な描写は、目を逸らしてきた贅沢を肯定し、本当の意味で自律して生きることを問い直させます。自分を愛するための戦いを選ぶ者へ贈られた、もっとも豊潤で危険な文学的劇薬と言えるでしょう。