長岡弘樹氏が描く世界は、研ぎ澄まされたメスで日常の薄皮を剥ぐような凄みがあります。本作は変わりゆく町を舞台に、人々の心の奥に眠る澱や輝きを鮮烈に描写。緻密な伏線が回収される快感以上に、その裏に潜む人間の業や哀しみへの深い洞察こそが、本書最大の魅力といえます。
読み進めるほどに愛の多面性が浮き彫りになる構成は圧巻です。違和感が感動へと昇華される瞬間、読者は著者の掌の上で心地よい衝撃を受けるでしょう。ミステリーの枠組みで描かれる、優しくも鋭い人間讃歌。ページをめくる手が止まらない、魂を揺さぶる珠玉の短編集です。