あらすじ
人にぶつかっていないと、自分が生きているかどうかよくわからなくなるーー
総大三高の「アリ」こと中村昴が所属するアメフト部は、万年2回戦どまり。相手校の練習を隠し撮りして迎えた高3の引退大会では、強豪・遼西学園に打ち破れた。引退後、みなが受験に向かうなか、勉強にも気持ちが入らず、不良になる覚悟もないまま宙ぶらりんの日々を過ごす。自分自身の不甲斐なさにもがき続けるなかで、アリは再びアメフトと向き合う決意を固める。
青春の苦みと悦びに満ちた、著者渾身の初小説。
ISBN: 9784163920665ASIN: 4163920668
作品考察・見どころ
本作は、漫才師・若林正恭という稀代の観察者が、自身の魂を削り取って書き上げた鮮烈な青春文学です。アメフトという身体が激しくぶつかり合う競技を舞台にしながら、そこで描かれているのは極めて内省的な「自己との闘い」です。敗北の予感や言葉にならない焦燥感を抱え、それでも一歩前へ踏み出そうとする少年の葛藤は、単なるスポーツ美談を超えた切実なリアリティを放っています。 特に、痛覚を伴うほど生々しい心理描写は圧巻です。他者と身体をぶつけ合う瞬間の熱量と、ふとした時に訪れる静寂のコントラストが、若さゆえの孤独と充足を鮮やかに浮き彫りにします。泥に塗れ、汗を流す日々の果てに彼らが見出す景色は、読者の心に青く澄み渡る救いを与えてくれるでしょう。これは、傷つくことを恐れずに今を生きるすべての人への福音です。