長岡弘樹は、一瞬の沈黙に人間の業を凝縮させる稀代の魔術師です。本作はミステリーの枠組みを借りつつ、逃れがたい血の呪縛と救済を鋭利に描き出しました。論理的な謎解き以上に、極限状態に置かれた人間が抱く微かな戸惑いや慈しみが、読む者の胸を激しく揺さぶります。
全七編に共通するのは、単なる善悪では裁けない情念の深さです。家族という、最も身近で不可解な共同体で起きる綻びを、著者は透徹した筆致で掬い上げます。一編読み終えるごとに、自らの内に流れる血の重みを再確認せずにはいられない、短編小説の極致とも呼ぶべき魂を震わせる傑作です。