あらすじ
第二次大戦直前、世界中にキナ臭い空気が漂う1935年。左翼運動に挫折しパリにやって来た、子爵家出身の日本人青年がいた。偶然、目にしたトリポリ・グラン・プリに魅せられ、青年はレーサーを目指す。ナチスの足音、スターリンの影に震える欧州で、国際諜報戦に巻き込まれつつも疾走する熱い青春―。冒険小説の枠を超えた面白さで圧倒する超大作2500枚。’95年、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会特別賞受賞。
ISBN: 9784101197128ASIN: 4101197121
作品考察・見どころ
1930年代の不穏な欧州を舞台に、挫折した青年が速度という魔性に魂を捧げる姿は、冒険小説の極致と言えます。藤田宜永氏が描くのは、単なるレースの興奮ではありません。左翼運動に敗れた者が、ナチスの影が忍び寄る激動の中で、機械という鋼鉄を通じて自らの実存を証明しようとする、高潔で孤独な戦いなのです。虚無を抱えた若者が生死の淵で放つ一瞬の輝きに、読者の魂は激しく揺さぶられるでしょう。 映像版ではエンジンの轟音や疾走感が五感を刺激しますが、原作の真骨頂は文字から立ち上る退廃的な空気と、人物の心の深淵にあります。活字ならではの冷徹な諜報戦と緻密な心理描写が、物語に重厚な陰影を与えています。映像の躍動感を知ることで、原作に漂う静謐な孤独がより一層際立ち、両者を横断することで、この壮大な人間ドラマは真の完成を迎えるのです。



