あらすじ
傷病をかかえた樹木を診断し治療する樹木医の沢村と画廊喫茶を営む美枝子。静かな生活は、運命の再会で破られる―。八ヶ岳の麓の集落にあるアカマツの初診を終えた樹木医の沢村信治は、諏訪湖の畔にある病院へ足を延ばした。沢村自身のホームページを通してメル友になった安住陽子を見舞うためだった。初顔合わせの緊張も解けた頃合い、陽子の母親が病室に入ってきた。その瞬間、金縛りにあったように動けなくなる沢村。そこに現れたのは、二十数年前、愛し合い、片時も離れたくないと思っていた美枝子だった―。55歳の樹木医と46歳の画廊喫茶の女店主。過去を引きずらずに互いの人生に向き合えるはずだったが...。情趣豊かな風景の中で燃えあがる恋情。恋愛小説の白眉。
ISBN: 9784048739580ASIN: 4048739581
作品考察・見どころ
藤田宜永が描くのは、静謐な自然の中で再燃する大人の魂の震えです。樹木医という命の再生を司る職業を通じ、過去の傷を抱えた男女が再び生を謳歌しようとする姿は、枯れ木に芽が吹くような力強いカタルシスを与えます。沈黙の中に潜む情熱を繊細な筆致で炙り出す手法は、まさに大人の恋愛小説の極致と言えるでしょう。 映像版では諏訪の美しい景観が心理描写を補完し、視覚的な叙情性を高めています。対して原作の白眉は、映像では掬いきれない内面の葛藤を重層的に綴る独白の深みにあります。映像の美学と小説の温度感が響き合うことで、この物語は一生忘れられない愛の記憶として完成するのです。



