あらすじ
尊王攘夷に揺れる京の情勢が品川にも暗い影を落とす中、紅屋の女料理人として腕をふるうおやすの前に、「としさん」こと土方歳三や「なべ先生」としてかつて親しく接した絵師・河鍋狂斎、そして女剣士の中沢琴らが次々と現れ、しばしの再会の時を過ごす。
一方でおやすは、体調を崩した料理人の政一を心配しながら、紅屋への養女入りの話の進む女中頭・おしげがその世話をする姿に、来るべき紅屋の姿を心の中で思い描く。
そんな折、紅屋主人を通じて、豆づくしの夕餉をつくるよう謎めいた注文が入り、おやすたちは頭を悩ますことになるのだが……大好評大河シリーズ第十三弾!
ISBN: 9784758447843ASIN: 4758447845
作品考察・見どころ
柴田よしきが描く本作の真髄は、幕末の動乱を台所という小さな宇宙から照射する視点の鋭さにあります。土方歳三ら歴史の巨星たちが、おやすの膳を前に戦士の仮面を脱ぎ、一人の人間として息づく描写には、時代小説としての無類の深みが宿っています。食を通じて語られる彼らの素顔こそ、本作最大の文学的妙味です。 また、揺れ動く時代の中で「変わらぬ日常」を守り抜く人々の矜持が胸を打ちます。謎めいた豆料理という難題に挑むおやすの姿は、素材の持ち味を活かす料理の極意が、そのまま過酷な時代を生き抜く智慧へと昇華されています。味覚の描写が心の機微と重なり合い、読む者の魂を温かく震わせる至高の一冊といえるでしょう。