あらすじ
「あなた、そろそろ家を建てなさいよ」
十七年前。母の唐突な一言から、小説家である著者の家づくりは始まった。実家で仕事に没頭する娘を案じた、母なりの「公私の別をつけなさい」という警告だった。目指すのは実用的で手のかからない家、ただそれだけ。しかしこの話は、女性のひとり施主も、在宅ワークも、ネット通販も今よりもっと珍しかった頃のこと。自分の中ではごく「ありふれた」生活をつめこんだ、夢のマイハウス計画の行方は……?
懐かしく、ときに甘く、苦く、おおむね可笑しく振り返る、家づくりの日々を綴った傑作エッセイ。
ISBN: 9784868434016ASIN: 4868434012
作品考察・見どころ
本作は単なる建築記録の枠を越えた、一人の女性が「自分だけの居場所」を勝ち取るまでの魂の戦記です。椹野道流氏の筆致は、軽妙なユーモアの裏側に鋭い洞察を秘め、理想と現実の狭間で揺れる人間の機微を鮮やかに写し出します。母の一言から始まった家づくりは、自らの人生の輪郭を捉え直す壮大な自己発見の旅へと変貌を遂げていきます。 十七年前の空気感を纏いつつ、本書が今なお輝くのは「いかに生きるか」という普遍的なテーマが流れているからです。ありふれた日常を慈しむために、自らの意志で城を築く。その苦悩と歓喜が凝縮された文章は、読む者の胸に熱い勇気を灯します。自分を肯定するための聖域を創り出す、その情熱に震える一冊です。