あらすじ
『このミステリーがすごい!』大賞シリーズ。
着物が着られるようになる!? 着物×ミステリー。
七森波子、三十三歳。なみこ、の「波」は、「並」のなみだな、と自分でも思っていた。この先、人生にそう面白いイベントは来そうにない。婚活もあきらめて、これからも事務の仕事を淡々とこなしていくーーはずだったが、とある事件から、運なし・職なし・家なし・恋人なし・友人なし・服なしとなってしまった波子。あるのは暇だけ。伝手を頼って、香川県・琴平に移住することになる。そこで出会ったのは、古着屋・黒猫亭の店主マリイ。
店主のマリイに勧められるがまま、波子は着物を購入する。やがてマリイを通して、店の常連だというカコから着物を譲り受け、文通を始めた。
着付けを学びながら、波子は黒猫亭で起こる騒動に巻き込まれて……。
ISBN: 9784299008527ASIN: 4299008529
作品考察・見どころ
柊サナカ氏が描く本作の真髄は、どん底の日常が「布一枚」で鮮やかに彩色されていく再生のダイナミズムにあります。着物という伝統衣装が持つ物語性を謎解きの核に据えることで、単なるミステリーに留まらない、人生の綻びを丁寧に繕うような温かみを提示しています。何者でもない自分に絶望していた主人公が、他者の歴史を纏うことで自己を再定義していく過程は、読者の魂を震わせる力強いエールとなるはずです。 古着という「過ぎ去った時間」を扱う黒猫亭の舞台装置も秀逸です。着付けの描写に込められた細やかな筆致は、そこに生きた人々の体温を蘇らせる文学的な豊穣さを湛えています。日常の違和感を優雅に紐解いていく本作は、伝統と現代を繋ぎ、凍てついた心を解きほぐす極上の読書体験を約束してくれます。