十七年の沈黙を破り放たれた本作は、正体不明の鵼を象徴に、人の認識が孕む危うさを鋭く抉り出します。京極夏彦の真骨頂は、膨大な言葉で世界の輪郭を解体し、再構築する哲学的な営みにあります。論理と情念が交錯する文体は、読者の脳内に闇を投影し、逃れられない迷宮へと誘う凄絶な引力を放っています。
映像版は膨大な語りを様式美へと凝縮し、鮮烈な速度感を与えました。対して、活字のみが到達し得る深遠な心理描写や、存在の不確かさを言葉で縛り上げる凄みは圧巻です。両メディアを往復することで虚構と現実の境界が瓦解し、物語の深淵を多角的に味わえる極上の眩暈を体験できるでしょう。