大根仁/岩井俊二
「打ち上げ花火は横から見たら丸いのか、平べったいのか?」夏の花火大会の日、港町で暮らす典道は幼なじみと灯台に登って花火を横から見る約束をする。その日の夕方、密かに想いを寄せる同級生のなずなから突然「かけおち」に誘われる。なずなが母親に連れ戻されて「かけおち」は失敗し、二人は離れ離れに。彼女を取り戻すため、典道はもう一度同じ日をやり直すことを願うがーー。繰り返す夏休みの1日、ふたりが最後に見る花火のかたちはーー?
本作は、繰り返される夏の一日という装置を通じ、少年時代の瑞々しい情熱と切なさを浮き彫りにします。大根仁が紡ぐ言葉は、岩井俊二が生んだノスタルジーを現代の感性で再構築し、ままならない現実を「もしも」という祈りで塗り替えようとする少年の決意を、剥き出しの熱量で描き出しています。 映像が放つ光の粒子に対し、この小説版は登場人物の内面に渦巻く言葉にならない焦燥や、微かな息遣いを克明に定着させています。緻密な心理描写が映像の幻想的な飛躍に確かな実存感を与えており、両メディアを横断することで、花火が消える瞬間の美しさと永遠への渇望がより深く胸に刻まれるはずです。
大根 仁 は、東京都国立市出身のテレビドラマの演出家、映画監督。オフィスクレッシェンド取締役。
実写化・アニメ化された映画やドラマを観て、原作小説ならではの美しい心理描写や、映像化で新たに加えられた解釈・演出との違いを楽しみましょう。