石黒正数が描くのは、日常という迷宮を歩む歩鳥の哲学です。第9巻は、緻密な伏線と非線形な時間軸が極まり、下町の風景が知的なミステリへと変貌します。何気ない会話の裏に潜む「世界の構造」を暴く筆致は、純文学に近い深みを湛えています。
アニメ版が演出の魔法で街の活気を彩ったのに対し、原作の真髄は読者の視線に委ねられた「情報の集積」にあります。静止したコマに隠された伏線を自ら手繰り寄せる悦びは、漫画ならではの醍醐味です。映像の熱量を紙の上で再構築する知的なゲームこそ、本作を味わい尽くす王道と言えるでしょう。