あらすじ
時は天保十二年。丹沢で熊獲り名人と呼ばれている玄蔵は、恋女房の希和とふたりの子どもと共に幸せに暮らしていた。
そんなある日、御公儀徒目付の多羅尾と名乗る武士が突然玄蔵の元にやって来て、「お前、江戸に出て武家奉公をしてみないか」という。
どうやら己の鉄砲の腕が欲しいらしい。とんでもないと断ろうとした玄蔵だが、「お前の女房は耶蘇なのか」と脅され、泣く泣く多羅尾と共に江戸へ……。
孤立無援の玄蔵を待ち受けている苛酷な運命とは!? 人気作家による、手に汗握る熱望の書き下ろし時代小説、新シリーズ。
ISBN: 9784758445146ASIN: 4758445141
作品考察・見どころ
井原忠政氏が描く本作の真骨頂は、大自然の厳しさと人間社会の歪んだ論理が交差する瞬間にあります。熊獲り名人として純粋に生きてきた玄蔵が、愛する家族を守るために「人を撃つ」という業を背負わされる葛藤。それは、個人の矜持が組織の冷徹な暴力によって蹂躙されていく悲劇でありながら、極限状態で見せる人間の気高さを問う壮大な人間ドラマです。 鉄砲という冷徹な道具を通じ、著者は生と死の距離を鮮烈に描き出します。時代に翻弄される狩人の視点から見る江戸は、華やかさの裏で血を求める残酷な檻。手に汗握るスリルの中に、理不尽な運命へ静かに抗う男の魂の叫びが響き渡ります。ただの活劇に留まらない、重厚な文学的余韻に満ちた魂の傑作です。