原田ひ香氏は、金銭という記号を通して人間の業を描く名手です。本作では一冊の家計簿が、亡き女性の魂の記録として立ち現れます。単なる数字の列ではなく、そこには秘めた情念と日常を生き抜こうとした執念が刻まれており、読者は無機質な記録から彼女の生々しい体温を感じるような錯覚に陥るでしょう。
衝撃的な結末の裏側を日々の生活費から紐解く過程は、最高にスリリングな文学体験です。生活の底流に潜む不穏さと、切実な生の渇望。読後、あなたの手元の家計簿さえも、自分自身の秘められた人生を語り始める装置へと変貌を遂げるに違いありません。