満洲という幻影の地を舞台に、建築と戦争を渾然一体とさせた本書は、歴史を単なる記録ではなく、人間の意志が生んだ巨大なフィクションとして描き出します。地図という静謐な「設計図」が、暴力という「拳」によって血肉を得ていく過程は圧巻であり、国家という虚構に魅せられた人々の狂気と崇高な情熱が、圧倒的な熱量で胸に迫ります。
小川哲が紡ぐ知の冒険は、言葉でしか構築し得ない都市の美学と残酷さを暴き出します。読者は、歴史とは勝者の記録ではなく、そこに生きた個々の夢が重なり合った地図そのものであると知るでしょう。知的好奇心を極限まで揺さぶり、読後には世界の見え方が一変してしまう。それこそが、この記念碑的傑作が持つ真の魅力です。