あらすじ
ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに篭めた想いとは―。山本周五郎賞受賞作。
ISBN: 9784101259611ASIN: 4101259615
作品考察・見どころ
本作は、美術史の隙間に潜む「真実」を、圧倒的な熱量で描き出した至高のアート・サスペンスです。著者の原田マハは、アンリ・ルソーという不遇の天才が遺した色彩を、硬質な知性と瑞々しい感性で見事に翻訳してみせました。謎めいた古書を通じて語られる物語の中の物語は、読者を二十世紀初頭のパリへと誘い、伝説的な画家たちの魂の交流を鮮烈に追体験させます。 特筆すべきは、言語という媒体を用いながら、読者の脳内に名画の筆致や温度感を直接訴えかける筆力です。真贋を見極めるのは単なる知識ではなく、対象への深い愛である。その矜持を体現する主人公たちの情熱は、芸術を愛するすべての人への賛歌となっています。一筆ごとに奇跡が宿るカンヴァスの如く、一文字一文字に美しさと驚きが満ち溢れた、読む者の魂を震わせる傑作です。