あらすじ
「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。
ひとつの都市が現われ、そして消えた。
日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。
【著者紹介】
小川哲(おがわ・さとし)
1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年に『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。『ゲームの王国』(2017年)が第三八回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞。『嘘と正典』(2019年)で第162回直木三十五賞候補となる。
作品考察・見どころ
小川哲が放つ『地図と拳』は、歴史という名の残酷な大地に人間の野心と空想を叩きつけた、類まれな巨編です。満洲という「白紙」に国家という夢を刻もうとした者たちの狂気と静謐が、壮大な叙事詩として描かれています。単なる歴史小説の枠を超え、SF的な緻密さで都市の生成と消滅を解剖する筆致は圧巻。私たちが生きる現実がいかに虚構と血によって編まれているかを、峻烈に突きつけてきます。 本作の白眉は、地図という記号が現実を上書きし、変貌させていく凄絶なプロセスにあります。知略と暴力、信仰と策謀。これらが重なり合い、名もなき集落が巨大な国家の意志へと変貌を遂げる様は、建築的かつ音楽的な美しさすら湛えています。失われた時代の息遣いを鮮烈に蘇らせ、読者の脳内に存在したはずの幻影を焼き付ける、極上の知性と興奮に満ちた一冊です。