堂場瞬一氏が描く本作は、戦争の暗雲が立ち込める中でスポーツの理想を死守しようとした男たちの、壮絶な「静かなる闘争」の記録です。組織のしがらみや軍部の野心に翻弄されながらも、海を越えた友情を信じ抜く個人の尊厳を鮮烈に描き出しており、単なる歴史秘話に留まらない、人間の意志の強さを問う普遍的な文学性を備えています。
スポーツ小説の名手である著者は、警察小説で培った緊密な構成力で、国家という巨大な壁に立ち向かう者たちの心理戦を活写しました。平和の象徴を掲げながら泥沼の交渉に身を投じる石崎と、ハワイで夢を追う沢山(さわやま)の絆は、分断の進む現代にこそ響く輝きを放っています。歴史の狭間に消えた「幻の大会」を巡る熱き物語は、読む者の魂を揺さぶらずにはおきません。