柚木麻子氏が描く本作の真髄は、世間が押し付ける「無私の愛」という記号的な老人像を、主人公・正子が圧倒的なエゴで粉砕する痛快さにあります。加齢を衰退ではなく、経験を武器にする攻めの姿勢として捉え直す視点は、現代のエイジング観を根底から揺さぶる文学的な挑発といえるでしょう。
正子の生き様は、他者の評価に依存せず自らの主権を取り戻そうとする凄絶な執念の表れです。毒気のあるユーモアの奥に、現実をサバイブするための強靭な知性が光る本作は、読む者に「自分らしく生きる」ことの本当の覚悟を突きつける、鮮烈な人間讃歌です。