あらすじ
極限状況での謎解きを楽しんだ読者に驚きの〈真相〉が襲いかかる。
友人と従兄と山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った家族と地下建築「方舟」で夜を過ごすことになった。翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれ、水が流入しはじめた。
いずれ「方舟」は水没する。そんな矢先に殺人が起こった。だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。タイムリミットまでおよそ1週間。
生贄には、その犯人がなるべきだ。--犯人以外の全員が、そう思った。
ISBN: 9784065358542ASIN: 406535854X
作品考察・見どころ
夕木春央の「方舟」は、本格ミステリの枠組みを借りて人間の本質を解剖した、戦慄の倫理的試練です。閉鎖空間で繰り広げられるのは、生存と倫理の天秤、すなわち究極のトロッコ問題。緻密に積み上げられたロジックの美しさと、それを根底から覆す絶望的な情熱が同居する点に、本作の文学的な凄みがあります。 読者を待ち受けるのは、論理の先に用意された、あまりにも残酷で鮮烈な真相です。正義や情愛といった幻想を剥ぎ取り、生存本能という剥き出しの真実を突きつけるその手腕は、もはや恐怖に近い。ラスト一行がもたらす衝撃は、読後の世界を一変させる力を持っており、現代ミステリの最高到達点と呼ぶにふさわしい傑作です。