本作は、世界の崩壊という壮大な危機を背景に、記憶とアイデンティティという極めて繊細なテーマを抉り出しています。久保帯人氏特有の死生観は、文字を通じてより静謐に、そして鋭く読者の心に突き刺さります。実体のない記憶の集合体である少女・茜雫が、消えゆく運命の中で「今」を刻もうとする姿は、文学的な美しさに満ちた白昼夢のようです。
映像版が持つ華やかなアクションに対し、本作は登場人物の微細な心理描写を丹念に掬い上げています。映像では一瞬の表情として描かれた葛藤が、テキストでは深い哲学的な問いへと昇華されており、両メディアを往復することで物語の切なさはより多層的な厚みを増します。この一冊には、映像だけでは到達し得ない魂の震えが封じ込められています。