あらすじ
三代目山口組がまだ勃興期であった1959年、山本次郎は田岡一雄組長から盃を受けた。喧嘩で7人を刺し、1人を殺した一匹狼のワルに対し、田岡は「原爆を抱え込んだようなもんだな」と笑った。次郎の凶暴さは地元・神戸のヤクザや警察さえ怯えさせた。しかし殺しの次郎は同時に仏の次郎でもあった。後年、次郎は「宝塚地蔵園」を自費で開設、父母に孝養を説いた。また鎧兜(よろいかぶと)で旧農林省に乗り込み、食管法をつぶすべく1人だけのデモを掛けたりしている。この異色のヤクザは田岡を尊敬すること深く、またその一徹さを信じた田岡も終生次郎を心の頼みとした。
ISBN: 9784812441756ASIN: 4812441757
作品考察・見どころ
溝口敦が描く本作の白眉は、凶暴な「殺しの次郎」と慈悲深い「仏の次郎」という凄まじい二面性の同居にあります。一人の男の中に渦巻く破壊衝動と純真な信仰心が、田岡一雄という巨星との絆を通じて昇華されていく様は、単なる暴力の記録を超えた濃密な人間讃歌です。昭和という狂乱の時代を生き抜いたアウトローの剥き出しの魂が、読者の倫理観を激しく揺さぶります。 映像版ではその破天荒な行動が鮮烈な視覚体験として刻まれますが、活字でこそ味わえるのは次郎の内面に潜む静謐な情念です。凄惨な暴力描写の合間に、親不孝を悔い仏に縋る男の孤独を緻密に掬い上げる溝口の筆致。テキストと映像が共鳴し合うことで、一人の怪物の実像が立体的に浮き彫りとなる、至高のドキュメントがここにあります。