あらすじ
肺がんと診断された。その直後からいくつもの選択に直面する。まずは何を選択し、何を選択しないで来たのか。病院の選択、医師の選択、治療法の選択にはじまって、食べもの、代替療法……。「すること」と、「しないこと」と、ひとつひとつを自分で決めるしかない。自分から逃れることはできないのだから、悲観にも楽観にも傾かず、とにかく自分が頷ける小径を行く。いまもかけがえのない体験をつづけている。現在、わたしは元気だ。がんであることはわたしの一部でしかないのだから。 少し前に『明るい覚悟』(2020年単行本、2024年朝日文庫)という加齢をめぐる本を書いた。病に向き合うことも「明るい覚悟」のひとつである。〇「目次」から(一部)●第1章 ふたつの病院2023年6月A病院へ/生検失敗/B病院にて 2度目の生検/不信の時/7月、時間はまだある/ドアノブのないドア ひとり家族/血縁を問うーー絵本『あおいアヒル』●第2章 新しい入院先 C病院C病院2023年8月/見逃された変化、見逃した違和感/治療法の選択/医師や看護師さんにいつ訊いたらいい?/脱毛とウィッグとロケットと/血縁と結縁 /23年秋来年のスケジュールノートブック/再入院悪寒から、身体と食べもの ●第3章 放射線治療 思いだすひとびとPS(パフォーマンスステータス)と放射線治療/放射線台上にて 池波正太郎さんの贈りもの/クレヨンハウスのこと/「ケーキおばさん」募集●第4章 身体と病と放射線オレゴン州ポートランドの記憶/身体の「部位」と「全体」/ヒポクラテスへ /放射線治療室受付にて 父のために選んだ漢方/すれ違い 医師が患者になるとき●第5章 免疫力を強化する免疫力をあげる/「ファイトケミカルスープ」/西洋医学と漢方医学/あらためて「医食同源」/『サンタクロースっているんでしょうか』●第6章 2度目の春そして夏2025年4月、2度目の春ーー再発まで待たなくてはいけないのか?/スーザン・ソンタグ最期の日々/生活の質/シシリー・ソンダースの実践/エリザベス・キューブラー・ロス 5つの段階を辿る/散骨/絵本『ねえ、おぼえてる?』/ 『ハーレムの闘う本屋』/母がいた朝、わたしがいる夏ほんの、一部あとがきーーいま、ここから、明日へ
作品考察・見どころ
落合恵子氏の言葉は、がんという過酷な現実を、単なる闘病記ではなく気高い生の哲学へと昇華させています。本作の本質的な魅力は、溢れる情報に惑わされず、自らの違和感に従ってすることとしないことを峻別していく強固な意志にあります。がんは自己の一部であっても支配者ではない。その凛とした佇まいは、読者の魂を静かに、しかし激しく揺さぶります。 また、数々の文学や思想を引用しながら展開される考察は、一人の人間としての矜持に満ちています。病院の選択から日々の食事に至るまで、自らハンドルを握り続ける姿は、不確実な時代を生きる私たちに納得して生きることの真義を突きつけます。これは病を語りながらも、今この瞬間をいかに鮮烈に、自分らしく生き切るかを説く、希望に満ちた一冊です。