本作の真髄は、冷徹な鑑識官という記号に隠された米沢守の人間性を、ハセベバクシンオーが硬派な筆致で抉り出した点にあります。巨大なテロ事件の裏で私的な情愛に翻弄される孤独な闘いは、ハードボイルド小説としての美学を放っています。組織の論理と個人の執念が交差する瞬間、読者は彼が抱える深い寂寥感に心震わされるはずです。
実写映画版では米沢の軽妙な個性が際立ちますが、原作はより内省的で、鑑識という職業の静かな矜持を克明に描いています。活字ならではの濃密な心理描写が映像のダイナミズムを補完し、物語に圧倒的な奥行きを与えています。両メディアを味わうことで、不器用な男が辿り着いた真実の重みが、より鮮烈に胸に迫ることでしょう。