櫻田智也
昆虫オタクのとぼけた青年・エリ沢泉(えりさわせん。「エリ」は「魚」偏に「入」)。昆虫目当てに各地に現れる飄々(ひようひよう)とした彼はなぜか、昆虫だけでなく不可思議な事件に遭遇してしまう。奇妙な来訪者があった夜の公園で起きた変死事件や、〈ナナフシ〉というバーの常連客を襲った悲劇の謎を、ブラウン神父や亜愛一郎(ああいいちろう)に続く、令和の“とぼけた切れ者”名探偵が鮮やかに解き明かす。第10回ミステリーズ!新人賞受賞作を含む連作集。
櫻田智也が放つ本作の白眉は、令和の「亜愛一郎」とも称すべき名探偵・エリ沢泉の造形です。昆虫への偏執的な愛を抱く彼のとぼけた風貌と、冷徹なまでの論理的思考が織りなすコントラストは圧巻。日常の違和感を昆虫学的な視座で解き明かすプロセスは、比類なき知的快感をもたらします。 特筆すべきは、虫の生態を人間の業や孤独に重ねる文学的深みです。光に惹かれる蛾のごとく、逃れられない欲望を抱えた人々の悲哀が、鮮やかな反転劇により浮き彫りにされます。緻密な伏線が収束し、世界の構図が変貌する瞬間の衝撃はまさに格別。読後、あなたの眼に映る景色すら一変させる、ミステリの真髄がここにあります。