あらすじ
武士から菓子職人に転身した変わり種の主、治兵衛。父を助ける出戻り娘、お永。看板娘の孫、お君。
親子三代で切り盛りする江戸麹町の評判の菓子舗「南星屋」には、味と人情に惹かれやって来るお客が列をなす。
麹町を大火が襲った夜以来、姿を見せなくなった気のいい渡り中間を案ずる一家だったが、
ある日、思わぬところから消息が届き……。
「誰だって、石の衣は着ているもんさ。中の黒い餡を、見せねえようにな」
ほろりとやさしく切ない甘みで包む親子の情、夫婦の機微、言うに言えない胸のうち。
諸国の銘菓と人のいとなみを味わう直木賞作家の大人気シリーズ、最新刊!
〈収録作〉
饅頭くらべ
母子草
肉桂餅
初恋饅頭
うさぎ玉ほろほろ
石衣
願い笹
ISBN: 9784065413975ASIN: 4065413974
作品考察・見どころ
西條奈加が描くのは、単なる江戸の情緒ではない。元武士の主が打つ菓子は、人の心の「甘み」と「苦み」を鮮やかに浮き彫りにする。本作の白眉は、外側の殻で内面を隠す「石衣」の如き人間の業を、慈しみ深く肯定する視座にある。銘菓の由来に人生の機微を重ねる筆致は、まさに直木賞作家の真骨頂と言える。 三世代が営む店に集うのは、癒えぬ傷や秘密を抱えた人々。彼らの強がりを、ほろりと解きほぐす家族の情愛が、読む者の魂を温める。言葉にできない悲しみさえも、一粒の菓子が救済へと変える。この至高の人間ドラマは、現代を生きる私たちの心に深く、優しく、甘い余韻を残し続けるだろう。