綿矢りさが描くのは、洗練された日常の裏に潜む、滑稽なほど剥き出しのエゴイズムです。本作の真髄は、他者への憐れみが自己防衛や優越感へと変質していく残酷な心理描写にあります。愛という言葉では縛れない、現代人の歪な自尊心が、研ぎ澄まされた毒のある筆致で容赦なく暴かれます。
収録作に共通するのは、女性同士の微妙な力学と美貌という呪縛です。「かわいそう」という言葉の裏に潜む傲慢さを見出したとき、読者は自らの内面を鏡に映されたような戦慄を覚えるでしょう。美文の中に鋭い爪跡を残す、痛烈かつ極上の文学体験がここにあります。