綿矢りさが描くのは、恋愛の甘美さの裏に潜む、抜き差しならない関係の「業」です。本作では、愛し合いながらも婚姻という制度に拒絶反応を示す男女の、滑稽で切実な断絶が綴られます。相手を慈しむ心と、己の聖域を侵されたくないという本能。その矛盾が火花を散らす様子を、著者は鋭利な言葉で切り出しており、読者は身を削られるような共感と苦笑を禁じ得ません。
文字から伝わるのは、生姜のようにピリリと舌を刺す感情の質感です。日常の些細な違和感を増幅させ、普遍的な孤独へと昇華させる筆致はまさに円熟の域。理屈では割り切れない「他者との共生」の困難さに挑んだ本作は、現代を生きる私たちの臆病さと渇望を、これ以上ないほど鮮やかに、そして情熱的に映し出しています。