あらすじ
9・11以降、激化の一途をたどる“テロとの戦い”は、サラエボが手製の核爆弾によって消滅した日を境に転機を迎えた。先進資本主義諸国は個人情報認証による厳格な管理体制を構築、社会からテロを一掃するが、いっぽう後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢いで増加していた。その背後でつねに囁かれる謎の米国人ジョン・ポールの存在。アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は、チェコ、インド、アフリカの地に、その影を追うが...。はたしてジョン・ポールの目的とは?そして大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?―小松左京賞最終候補の近未来軍事諜報SF。
ISBN: 9784152088314ASIN: 4152088311
映画・ドラマ版との違い・考察
伊藤計劃が遺したこの衝撃作は、単なるSFの枠を超え、言語という生理的な器官が世界を地獄に変える恐怖を突きつけます。冷徹な文体で綴られるのは、平和を享受する我々の背後にある巨大な欺瞞です。内省的な思索と凄惨な戦場が交錯する物語は、読者の道徳観を激しく揺さぶり、意識の下層にある本能的な闇を呼び覚まします。 アニメ版では圧倒的な映像美で戦慄の光景が具現化されましたが、原作の真髄は主人公の深淵な独白にあります。言葉が神経を書き換えていく過程を文字で追う体験は、読者自身の脳内に直接虐殺の文法を刻み込むような凄みがあります。両メディアを往還することで、この黙示録的傑作はより逃れがたいリアリティを持って迫ってくるはずです。


