劇作家・前田司郎が放つ本作は、人間の内面に潜む切実な滑稽さを鮮やかに炙り出しています。主婦探偵・宇宙船が対峙するのは、世間から隠すべきとされる秘密の性癖。しかし著者はそれらを蔑まず、個人の尊厳を守るための祈りのように描き出します。日常の延長線上にある不条理を、軽妙な文体で切り取る手腕は見事というほかありません。
最大の見どころは、脱力感の奥に宿る圧倒的な肯定感です。誰もが抱える歪みを、宇宙船というフィルターを通して愛おしい個性へと昇華させていく。本作は、窮屈な社会で息を潜める大人たちに、自分らしくある勇気を与えてくれます。読み終えた後、この奇妙な世界から抜け出せなくなる、文学的快楽に満ちた唯一無二の作品です。