小川糸氏の筆致は、心の機微を色彩豊かな情景と香り立つような美食で編み上げる魔法のようです。本作は、孤独な少年がサーカスという奇跡の共同体の中で、自らの欠落を個性に変えていく再生の物語です。綱渡りという危ういバランスの上に成り立つ生を、著者は優しく、時に鋭く肯定しています。
多様な人々が共生するサーカスは、画一的な社会への鮮やかなアンチテーゼです。端々に漂うスープの温もりや団員たちの矜持は、読者の心を芯から温めるでしょう。生きるとは、自らの足で綱を渡り続けること。その覚悟と輝きを教えてくれる、魂を揺さぶる至高の一冊です。