火野葦平の糞尿譚は、排泄物という生々しい物質性を介して、人間の剥き出しの尊厳と生命力を描き出した傑作です。最底辺の日常に宿る猛々しい熱量と、不条理に抗う庶民の意地。それらが織りなす泥臭くも崇高な人間讃歌は、読者の魂を激しく揺さぶらずにはおきません。
対する河童曼陀羅では、一転して郷愁と幻想が交錯する幽玄な世界が広がります。現世の苦闘を浄化するかのような、夢とうつつを自在に飛翔する軽やかな筆致。聖と俗、現実と空想の狭間を彷徨う火野文学の真髄は、激動の時代を峻烈に生きた表現者の渇望そのものであり、唯一無二の芳醇な輝きを放っています。