あらすじ
横浜で探偵業を営む遠刈田蘭平のもとに、一風変わった依頼が舞い込んだ。九州を中心にデパートで財をなした有名一族の三代目・豊大から、ある宝石を探してほしいという。宝石の名は「一万年愛す」。ボナパルト王女も身に着けた25カラット以上のルビーで、時価35億円ともいわれる。蘭平は長崎の九十九島の一つでおこなわれる、創業者・梅田壮吾の米寿の祝いに訪れることになった。豊大の両親などの梅田家一族と、元警部の坂巻といった面々と梅田翁を祝うため、豪邸で一夜を過ごすことになった蘭平。だがその夜、梅田翁は失踪してしまう……。
ISBN: 9784041150306ASIN: 4041150302
作品考察・見どころ
吉田修一氏の筆致は、一見平凡な日常に潜む人間の業を容赦なく抉り出します。本作は単なるミステリーの枠に留まらず、罪を背負うことの重さと、それを超える愛の形を究極まで突き詰めています。読者は頁を捲るごとに、加害者や被害者という単純な二項対立を超えた、震えるような生命の咆哮を耳にすることになるでしょう。 タイトルが示す一万年という悠久の時間は、絶望の深さであると同時に、決して消えない祈りの長さでもあります。論理的な謎解きの快感よりも、心の奥底にある倫理観を激しく揺さぶる叙情性こそが本作の真骨頂です。真実が明かされたとき、読者の胸には言葉にならないほどの純粋な慟哭と、不思議なほどの静寂が訪れるはずです。