佐々木裕一が本作で描くのは、江戸の街に息づく職人たちの汗と涙、そして不器用な情愛の結晶です。表題作における、放蕩の果てに帰郷した長男と亡き父の魂との邂逅は、単なる継承の物語を超え、断絶した絆を修復し、失われた時間を取り戻そうとする人間の魂の再生を鮮烈に描き出しています。
本作の真骨頂は、蝋燭の灯火や米つきの音といった日常の情景に、人生の深淵を投影させる瑞々しい筆致にあります。市井に生きる人々の孤独を溶かすような温もりが、精緻な描写の中で見事に昇華されています。読み終えた後、読者の心にも確かな「あかり」が灯る、至高の人情短編集です。