外山滋比古が提唱するのは、記憶という重力から精神を解放する「忘却」の美学です。知識の蓄積を善とする風潮に対し、著者は情報の代謝を促す重要性を説きます。洗練された言葉が描くのは、情報過多な現代で失われがちな「知的な余白」の豊かさ。本作は読者の固定観念を崩し、精神をあるべき自由な形へと還してくれるのです。
忘れることを「知の創造」の不可欠な工程として再定義した点に、本書の真髄があります。過去を削ぎ、頭脳を空にすることで真の思考が動き出すという逆説。その論考は単なる技法を超えた一級の知性論であり、読み手の脳を心地よく浄化しながら、未知の思考の地平へと誘う情熱的な導きに満ちています。